アンダーグラウンドからメインストリームへ。
今日のミュージックは日本でも大人気のエレクトリック・ライト・オーケストラの登場です。ここのところいろいろなアーティストの「初物づくし」でお送りしておりますが、今朝もまた彼らのデビュー・アルバムをアップすることにします。
1960年代のイギリスにどちらかというとアンダーグラウンドな活動をしていた The Move というバンドがありました。そのリーダーだった Roy Wood がザ・ムーヴとはまた一味違う音楽を目指して新たに結成したのがエレクトリック・ライト・オーケストラでした。
鬼才と言われたロイ・ウッドはマルチ・インストゥルメンタリストで、ザ・ムーヴのメンバーだった、同じくマルチ奏者の Jeff Lynne とドラムス、パーカッションの Bev Bevan を引き連れての新規スタート。
追加メンバーには、ホルンとピッコロ・トランペットの Bill Hunt、ヴァイオリンの Steve Woolam が入り、ホーンとストリングスが奏でる色彩豊かな音の中でそれまでになかったロックを創り出そうとしたのです。
この段階ではこの試みが長く続くかどうかは分からなかったことでしょう。ロイ・ウッドにとってはサイド・ビジネスとしての、単に実験的なプロジェクトだったのかもしれません。しかし71年末にリリースされたこのデビュー・アルバムは、ザ・ムーヴでは成し得なかった全米チャートへの登場など、成功を収めました。
ここにはオリジナリティあふれるユニークな試みがいっぱいです。ぎこちなさを感じる曲もありますが、そこが新たなる挑戦を感じさせる要因だとも言えますね。
Tr-01 10538 Overture/10538序曲(夢からきた男) (1972 - 全英9位)
02 Look At Me Now
03 Nellie Takes Her Bow
04 The Battle Of Marston Moor (July 2nd 1644)/ザ・バトル・オブ・マーストン・ムーア
05 1st Movement (Jumping Biz)
06 Mr. Radio
07 Manhattan Rumble (49th St. Massacre)/マンハッタン・ランブル
08 Queen Of The Hours
09 Whisper In The Night
トップを飾るのは全英チャートで最高第9位まで上がったヒット・シングル「10538序曲」。元々はザ・ムーヴのシングルB面用に作られた曲でしたが、チェロ・パートが追加されてELOのレコードとなりました。当時、日本では「夢からきた男」という邦題でリリースされ、その国内盤はかなりの珍品なんじゃないかな。
エレクトリック・ギターのヘヴィなフレーズにホーンが加わって、ストリングスが入って本格的なイントロが始まります。これがオーケストラとロックの融合か、と思う間もなく、作者でもあるジェフ・リンのヴォーカルが入ります。ギターのフレーズが繰り返された後、ホルンとチェロのソロが入ったりすると、あらためて「これがオーケストラとロックの融合か!」と感じるわけです。インストゥルメンタル・パートの割合も大きくて、「序曲」と銘打った理由もよく分かりますね。
ちなみに「10538」というのは囚人番号だそうです(^^;)
Tr-02 「ルック・アット・ミー・ナウ」はロイ・ウッド作の小品。木管楽器やウッドベースをバックに、ロック・バンドではできないサウンドにチャレンジしています。途中のオリエンタルな間奏がユニーク。ドラムスもギターも入っていないので、ひょっとするとすべての楽器をロイ・ウッド自身で演奏しているのかもしれませんね。
Tr-03 「ネリー・テイクス・ハー・バウ」はジェフ・リンの作品。シンセサイザーのイントロから一転、ピアノをバックに彼が歌うバラード・パートから始まり、2分20秒過ぎからアップテンポに転じます。4つの楽器が掛け合いを演じながら緊張感を高めること50秒、エキゾティックな雰囲気に急変。「ヴァイオリンが躍る」というのはここのことだな。そのヴァイオリンが奏でるのは島国らしい湿り気のあるメロディです。4分20秒過ぎから再度ヴォーカルが入り、曲はクライマックスへ突入します。
Tr-04 「ザ・バトル・オブ・マーストン・ムーア」はロイ・ウッド作のバロック音楽を下敷きにしたような奇作。彼は、楽器の演奏をバックに「歌」ではなく「朗読」を披露してますね。実験的で大胆な作風はクラシックの前衛作品のようで、ドラマーのベヴ・ビーヴァンはついていけず、この曲で演奏するのを拒否したそうです。
Tr-05 「ファースト・ムーヴメント(ジャンピング・ビズ)」はロイ・ウッドのアコースティック・ギターが主役のインスト曲。テンポがよくて楽しい演奏ですが、メロディラインはどこかもの悲しさも感じさせます。流れるようなカッコよさを演出しているのはベヴ・ビーヴァンの闊達なドラミングですね。
Tr-06 「ミスター・レイディオ」はジェフ・リン作のメランコリック・チューン。「妻に逃げられた孤独な男が、ラジオを心の支えにしている/彼女が去ってしまっても、ラジオはここにある。ラジオの電波は世界中を巡っているのに、それでもあなたはこのラジオの中にいる」という切ない内容は、インターネット社会の現在では通じにくいんでしょうね。
ラジオのチューニングを合わせているような効果音の出だしからオーケストラのイントロが始まりますが、なんだか音が妙です。ジェフ・リンお得意の「テープの逆回し」手法をもうここで使っているんですね。このあたりは The Beatles のサイケな楽曲の影響をもろに受けている作風だと思います。
ピアノとストリングスが中心のバック・トラック。ベースラインは完全にオーケストラに任せてしまっています。エレクトリック・ライト・「オーケストラ」たる所以です。途中の間奏部でテンポ・アップするパートがあるのですが、そこに出てくるピアノのメロディが「何が出るかな、何が出るかな」のさいころトークのテーマみたいで、思わず笑いたくなります。最後はチューニングがずれていくかのような終わり方で、後に寂しい余韻を残します。こういう終わり方もイイかな。
今日も世界中でラジオが人を楽しませ、慰め、貴重な情報を流しているのだと思います。そして今この瞬間も、数々の素晴らしい曲が流されているんだろうな~♪
Tr-07 「マンハッタン・ランブル」はジェフ・リンのピアノが主役のインスト・ナンバー。いばりくさって闊歩しているようなリズムがユーモラスです。途中で入ってくるお道化たフレーズもまたユーモラス。それでいて全体が粋な感じの空気で充ちている、不思議な曲だと思います。Leonard Bernstein あたりの影響もあるかな。
Tr-08 「クイーン・オブ・ジ・アワーズ」はゴージャスなメロディを持つナンバー。畳み掛けてくるような緊張感ふれるイントロのフレーズから、メロウなメロディに入る変化が素晴らしい。その変化はさながら、既成のポップ・ロックと新しい試みを戦わせているようです。
実はこの曲は、このデビュー・アルバムに先駆けて、『The Harvest Bag』というコンピレーション・アルバムに収録されていたそうで、記念すべき「ELO初お披露目曲」ということになるんですね!
ラストを締めるのは、ロイ・ウッド作の「ウィスパー・イン・ザ・ナイト」。アコースティック・ギターのイントロで始まるとても耳に心地良いバラード・ソングで、極上のコーラスワークなどで清々しい雰囲気をもたらします。言ってみれば、“ロイ・ウッド版 「アメイジング・グレイス」” といったところでしょうか。
4コメント
2019.10.08 23:18
2019.10.08 14:11
2019.10.06 23:38