ロックが進化していたことの証人。
※邦題は後に『イエス・ファースト・アルバム』に変更
US盤LP
日本盤CD
一昨日の Led Zeppelin の記事でも書きましたが、1969年にデビューしたロック・バンドで私が特に注目しているのがツェッペリンとこのイエスなんです。
1968年に John Anderson (vo) と Chris Squire (b) によって結成されたイエス。他に3人のメンバー、Bill Bruford (ds, vib)、Tony Kaye (key)、Peter Banks (g) を加えて制作したファースト・アルバムが『イエスの世界』でした。
結成の翌年1969年にリリースされた『イエスの世界』は、それまでのロックに飽き足らなくなったリスナーにアピールするべく、高度に複雑化したサウンドを提示しています。その特徴は、各楽器が単にヴォーカルの伴奏の役割だけではなく、クラシックやジャズのように前面で主張するようになったところでしょう。
しかもいたずらに難解にしてミュージシャンの自己満足に終わるのではなく、ハード・ロックの手法を用いたバックの演奏に、魅力的なメロディとハーモニーできちんとリスナーに訴えかけてくるところが素晴らしい。
レコーディング当時は最年長のジョン・アンダーソンでさえまだ24歳。当然、周囲からの扱いはまだまだ未熟な新進バンド。この段階で、後にこれだけのビッグ・ネームになろうとは、ほとんど予想できなかったのではないでしょうか?
実際、一部の評論家筋の評価はとても高かったのですが、一足先にデビューしたレッド・ツェッペリンのファーストにも食われたかっこうで、実際のレコードの売れ行きは今ひとつに終わりました。
Side-A
1 Beyond And Before
2 I See You3 Yesterday And Today/昨日と今日
4 Looking Around
Side-B
1 Harold Land
2 Every Little Thing
3 Sweetness
4 Survival
オープニングを飾る「ビヨンド・アンド・ビフォー」は、クリス・スクワイアと Clive Bailey によるオリジナル。まずはジョンのヴォーカルをはじめ、バンドのお披露目という感じで、うねるようなベースラインとハード・ロック調のギターにバックアップされて美しいハーモニーが流れていきます。
A-2 「アイ・シー・ユー」は、The Byrds のカヴァー曲。前半では The Doors みたいなオルガンが当時のロックらしさを出していますが、3分位からうしろではピーター・バンクスのギターが主役。ハイハットがリズムを刻む中、2分間に渡って延々とインプロヴィゼーションを展開しています。
A-3 「昨日と今日」は、ジョン・アンダーソン作の小品。ゆるやかなキーボードとアコースティック・ギターの伴奏を従えて、ジョンの美しいヴォーカルがメロディをたどるバラードです。ビル・ブラフォードはドラムスではなくヴィブラフォンを演奏しています。
A-4 「ルッキング・アラウンド」は、弾むようなリズムが楽しい曲。アンダーソン = スクワイアの作です。オルガンもギター・ソロも躍動感があって良い演奏だと思います。この曲のコード進行は、私の好みにピッタリ。サビの部分でのコーラス・ハーモニーもすごく好きです。一押し!
B面トップは、アンダーソン = スクワイア = ブラフォードによる「ハロルド・ランド」。ブラフォードが付けたこの不思議なタイトルは、ジャズのサックス・プレイヤーの名前だそうです。ちょっと緊張感のあるサウンドは、このバンドの多様性を表していますね。
B-2はアルバム中のハイライト、「エヴリ・リトル・シング」です。Lennon = McCartney のクレジットを見れば The Beatles のカヴァーだということが分かります。いきなり、インプロヴィゼーションから入るので、1分40秒過ぎでテーマが出てくるまでは、本当にあの曲なのか迷ってしまいますが。そしてヴォーカルが入る前には「デイ・トリッパー」のフレーズが入る遊び心もうれしいところ。
B-3 「スウィートネス」は、その名の通り甘~いロック・バラード。バック・コーラスも麗しく、“歌” を聞かせる曲に仕上げました。ファースト・シングルとしてリリースされましたが、英米ともにまったく引っ掛からず。残念!
ラストは全員のメロディをアンダーソンがまとめた「サヴァイヴァル」。この曲こそ後のプログレッシヴ・スタイルへの足掛かりとなる重要なナンバー。いくつかのパートから構成されていて、テンポも曲調もガラリと変わります。まだまだ継ぎ目の粗さなどが耳につきますが、この意欲的な姿勢は高く評価したいですね。
おそらくこの曲のような作り方を試さなかったら、のちに大ブレイクする「プログレのイエス」は存在しなかったはずです。私が好きなのはリリカルに進行しつつ徐々に盛り上がっていくアンダーソンのヴォーカル・パート。そしてみごとな掛け合いを演じるオルガンの音色。そのオルガンで終わるラストも素敵です。
8コメント
2019.09.11 22:42
2019.09.11 21:48
2019.09.10 20:28