#0003『Eve/イヴの肖像』 The Alan Parsons Project


ポップな小品が並んだファンタジックなアルバム。


 新天地第3号の音楽記事もアラン・パーソンズ・プロジェクトです。

 衝撃のデビュー・アルバム 『怪奇と幻想の物語 ~ エドガー・アラン・ポーの世界』 から 『アイ・ロボット』『ピラミッド』 とそれぞれ毛色の違う3枚の作品をリリースし、それぞれが成功を収めてきたプロジェクトの4作目が『イヴの肖像』でした。

 アルバム・プロデュースはアラン・パーソンズと盟友 Eric Woolfson。オーケストラ・アレンジは Andrew Powell、カヴァー・デザインは Hipgnosis とお馴染みの面々が携わっているのですが……。

 このアルバムは前3作を聴いてきたリスナーにとっては衝撃作だったのではないでしょうか。その衝撃の原因は日本盤LPについていたこのアオリを読めば分かりやすいと思います。

 「現代感覚あふれるポップ・ファンタジアー。アップ・トゥ・デイトなリズム。ELO&アバと並ぶ音楽性。」

 コンセプチュアルで全体が一つの組曲だと言えた前3作は、意欲的なプログレッシヴ・ロックでした。それがなんと ELOやアバと並んでしまったとは! 実際にアルバムは、どれもこれもシングル・カットできそうな、粒ぞろいの楽曲で占められています。プログレなんてどこ吹く風のポップ・サウンド。

 しかし、アオリには続きがあるのです。

 「……だが変身ではないアラン・パーソンズ……。」

 その意味するところは?


Side-A
  1 Lucifer
  2 You Lie Down With Dogs/ユー・ライ・ダウン・ウィズ・ドッグ
  3 I'd Rather Be A Man/ラザー・ビー・ア・マン
  4 You Won't Be There
  5 Winding Me Up


Side-B

  1 Damned If I Do/沈黙 (1979 - 全米27位)

  2 Don't Hold Back

  3 Secret Garden

  4 If I Could Change Your Mind/願い


 A面トップは 「ルシファー」。テクノ・ポップの手法を用いたインスト・ナンバーですが、薄くない、軽くない、明るくないの3拍子です(笑) 打ち込みのリズムときらきらのキーボードはまさにテクノ・ディスコ・サウンドなんですが、そこに合唱隊の神秘的なコーラスやオーケストラが加わって、ものすごい迫力の音を作り上げています。

 APPはアルバム中に必ずインスト曲を入れますが、この 「ルシファー」 は特に親しまれているナンバーだと思います。“ルシフェル” って魔王のことですよね。このアルバムのコンセプトって一体!?

 A-2 「ユー・ライ・ダウン・ウィズ・ドッグ」 は鈍重なリズムにファンキーなギター・フレーズが乗るロック曲。パワフルなノド声ヴォーカルは Lenny Zakatek です。サビの部分でフッと力が抜けてフィルターを通したようなコーラスが入るのが印象的。

 出だしの “お前は本当に冷たい女、だけど愛してるぜ” という歌詞に手がかりがありそうです。

 A-3 「ラザー・ビー・ア・マン」 は、イントロのギター・リフが耳に残るナンバー。ハード・ロックでも使われる速めのビートですが、リズム帯がテクノなので独特の雰囲気に仕上がっています。サビで重なる悲鳴を上げているようなストリングスの使い方が何かの凶兆のようですね。間奏部でピアノとストリングスがくるくると踊っているような表現はユニークで素晴らしい。

 ヴォーカルの David PatonPilot でお馴染みのアラン・パーソンズ・ファミリー。

 冒頭の “お前は色づいた目と化粧でオレを愚弄しないよな” も大きなヒントですね。

 A-4 「ユー・ウォント・ビー・ゼア」 は、Dave Townsend が歌うミドル・バラード。彼は 『アイ・ロボット』 でもヴォーカリストを務めていました。ちょっと線の細い感じの声ですが、優しく切ない曲にはピッタリかな。最終部のオーケストラの盛り上がりはなかなか感動的です。

 “約束の地を見せてくれれば、僕はどこへでも行く。君が僕の時間をくれというのなら、いつまででも待つよ” と語りかける相手と言えば……?

 そう思ってジャケット写真を見ると合点がいくのですが、アルバムのテーマは “女性” なんですね。

 オーケストラがフェイドアウトしていくのと入れ替わりに、ゼンマイを巻く音が聞こえて 「ワインディング・ミー・アップ」 の始まりです。この曲は私のA面の一押し曲になります。ポップなビートに乗って歌うのは Chris Rainbow。彼は特に高音部が美しいシンガーだと思います。

 小刻みな音符を丹念に演奏するオーケストラのアレンジも好きですね。ちょっと忙しないと思う方もいるでしょうが……。

 “君は僕のねじを巻きすぎだ。僕は訳が分からなくなって、昼か夜かも分からない。女性である君はそんなに強くないんだ。なのに君は急に僕のことを捕まえて、瞳で僕を焼き尽くし、僕を切り刻んで、仮面の内側を見通した!”


 レコードをひっくり返すと 「沈黙」 が始まります。出だしのオート・アルペジオのキーボードはまたもテクノ的、イントロが始まって2フレーズ目にパワフルなホーン・セクションが入ってくると本格的にエンジンがかかります。なめらかに進むメロディの底に、なんだか懐かしげなベースラインが流れているじゃありませんか。シングル・ヒットして全米トップ40入りしたこの曲のヴォーカルは、ふたたびレニー・ザカテックです。

 間奏部のホーン → ストリングス → ギター・ソロの流れは一級品。もう一味魅力があれば、さらに大きなヒットになったんでしょうが、ちょっと残念。

 ラストのフェイドアウト直前でストリングスが奏でるメロディは、数年後に Aldo Nova がヒットさせた 「ファンタジー」 のギター・フレーズと同じです。

 B-2 「ドント・ホールド・バック」 は明るく爽やかなポップ・チューンですが、あっと驚くのはヴォーカリストです。APP初の女性リード・ヴォーカルが登場します。さすがは女性がコンセプトのアルバム!

 彼女の名は Clare Torry。どこかで耳にしたことがありますね。Pink Floyd の 『狂気』 で悲痛なスキャットを聞かせてくれたあの女性です。もちろんアラン・パーソンズつながり。

 ここでは悲痛とは無縁の楽しげな歌い方で、“自分を押さえ込まないで、我慢しないで、ためらわないで、手を伸ばして!” な~んて話しかけてくれます。良いね~♪

 B-3 「シークレット・ガーデン」 は2曲目のインスト曲。軽快なシャッフルのリズムに乗る基本部分から始まります。キーボードと鈴の音が絡み合うAメロが転調しながら進んでいくと、ストリングスがオーヴァーラップしてきて徐々に豪奢になります。

 Bメロはテンポはそのままリズムだけがシャッフルを止める感じ。突如として 10cc が乗り移ったようなコーラスがフィーチュアされるのに驚きます。これはアラン・パーソンズの茶目っ気ですね。

 “秘密の庭” で、何が起こるのでしょうか!?

 ラストは正統派のスロー・バラード 「願い」 で締めます。バラードの中のバラード、MORの王道を行く壮大な作品です。ピアノのイントロ、叙情的なメロディ、豊かな音のオーケストラ、鳴きのギター・ソロ、役者はすべて出揃っていますね。また、この曲はAPP最後の女性リード・ヴォーカル・ナンバーでもあります。

 澄んだ歌声で、切なる想いを歌に込めるのは Lesley Duncan。どこかで耳にしたことがありますね。Pink Floyd の 『狂気』 でバック・コーラスを務めたかせてくれたあの女性です。もちろんもちろんもちろんアラン・パーソンズつながりですよ。

 この曲は 「沈黙」 のB面曲としてシングルになりましたが、これをA面で切っていれば大ヒットした可能性が高いと思うんですがね~。架空ディレクター Gutch15 としてはセカンド・シングルにしてトップ10入りを狙いたかったところです。アルバム中で一押し♪

 このアルバムのポリシーが “女性” だということは分かってきて、トータル・コンセプトが明らかになってきましたが、サウンド的には前3作とはだいぶ違いますね。音の重厚さはあまり感じられません。

 むしろ意図的に軽く薄くした節さえうかがえます。時流に合ったポップ・サウンドが作りたかった、というのが本当だとすれば、あえて軽く作ったのでしょう。

 このアルバムで一通り超ポップ・ソングに取り組んだAPPは、原点に立ち返って、プログレ色の強いトータル・コンセプト・アルバム 『運命の切り札』 を制作することになります。

4コメント

  • 1000 / 1000

  • gutch15

    2019.09.05 20:25

    @sgtbeatlesこれはぜひ聴いてみてください。一応ビートルズからの“人脈つながり”ということで(^^;)
  • gutch15

    2019.09.05 20:23

    @anasato他のAPPとは違った楽曲が聴ける作品ですよ~!重厚感というよりも、チープな感じが出ていますが、ELOだと思えば許せます(^o^)
  • sgtbeatles

    2019.09.05 19:04

    このアルバム持っていないんですよね・・・今後集めたいアルバムです。(^^

自由人 Gutch15 の気まぐれライフ from 横浜

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