戦争に勝って戦闘にすべて敗れる。
ティル・チューズデイはボストン出身のロック・バンドです。ハードな側面もあると思ったら、ニューウェイヴ・ロックもやるといった器用なバンドで、80年代半ばのちょっとウキウキしたロック・シーンを象徴していたような感がありました。
そんなティル・チューズデイが東海岸での数年間の下積みを経て、満を持して送り出したメジャー・デビュー・アルバムが『愛のヴォイセズ』で、タイトル曲のヒットとともにアルバムの方も●ゴールド・ディスクに認定されています。
メンバーは、
- Aimee Mann (vo, b)
- Michael Hausman (ds, perc)
- Robert Holmes (g, vo)
- Joey Pesce (synth, p, vo)
の4人編成。中心となっていたのは、リード・ヴォーカリストでベーシスト、そしてすべての歌詞を書いた女性、エイミー・マン。プロデューサーがイギリス人の Mike Thorne だったのは意外ですが、バンドのニューウェイヴっぽさは彼から来ていたのかもしれません。
このデビュー・アルバムでは折々でエイミー・マンの甲高いヴォーカルを聴くことができます。この唱法は多分にニューウェイヴを意識したものと思われますが、彼女がもっとロックっぽくアプローチできることは後に証明されることになります。
Side-A
1 Love In A Vacuum/夢から醒めて
2 Looking Over My Shoulder/想い出の視線 (1985 - 全米61位)3 I Could Get Used To This/時は不思議
4 No More Crying
5 Voices Carry/愛のヴォイセズ (1985 - 全米8位)
Side-B
1 Winning The War/愛のウィニング
2 You Know The Rest/小さな絆
3 Maybe Monday/マンデイにもう一度
4 Don't Watch Me Bleed/愛の傷跡
5 Sleep
A面トップはバキバキのベースと独特のコーラスワークから入る「夢から醒めて」。かなり前からのレパートリーで、この曲が地元ボストンでかなり人気になり近辺のラジオでかかりまくっていたのがメジャー・デビューのきっかけとなりました。ベースのソロから始まるイントロというのもあまりないと思うんですが、ここであえてそうしているのはエイミー・マンがバンドの中心なんだという主張かな。ミドル・テンポの宙を漂うような感覚が味わえるニューウェイヴ・ロックです。
アメリカではサード・シングルとしてリリースされたのですが、残念ながらチャート・インしませんでした。
A-2 「想い出の視線」はかなりノリの良いロック・ナンバー。イントロと間奏部のギター・ソロのフレーズが曲を引っ張ります。メロディに入ってからはベースの弾みが最後まで続き、後半ではキーボードがヴォーカルに連れ添うように入ってきて、4人のチームワークが感じられる曲です。この曲のエイミー・マンはかなり地声で歌っていますね。セカンド・シングルになりビルボード・ホット100で最高61位を記録。
A-3 「時は不思議」はミドル・スローなちょっと気だるげなナンバー。UKのバンドのようなサウンドでニュー・ロマンティックと呼ばれたバンドのようです。シンセサイザーの印象的な音とギターのリフがそう感じさせるのでしょうが、プロデューサーの特徴が出ていると言えます。
A-4 「ノー・モア・クライング」ではまたまた甲高い唱法に戻っています。シンセサイザーとギターのリフに今度はベースのリフも加わって形成されたパターンが耳に残ります。辛い恋愛を乗りこえてもう泣かない、という思いがこもっているのは、エイミー・マンの実体験によるものか。
A-5 「愛のヴォイセズ」はデビュー・シングルとして大ヒットしたナンバーです。ちょっと遅めのビートとリズム通りの符割りで丹念に鳴り続けるベース、そしてギターとキーボードのリフで成り立っています。
この曲ではエイミー・マンのキャラクターの多様性が気になるところ。元々の歌詞はかなりきわどい女性の同性愛めいた表現があったようなんですが、ちょっと書き換えたみたいです。
この曲のPVは最優秀新人ビデオ賞を獲った話題作で、MTVでは流れまくっていました。日本の音楽番組でもけっこう流れていましたね~! そんな話題性もあってかするするとビルボード・ホット100を駆け上がり、最終的にはトップ10入り(8位)を果たしました。
好きな曲だと話が長くなっていけないね(^^;)。そんな興奮が冷めやらぬうちにB-2 「小さな絆」に入っていきます。こちらは優しいバラード・ナンバーで後半の切ない盛り上がりはなかなかの聴きどころですが、「愛のウィニング」の次という配置はかなり不利かもしれません。
B-3 「マンデイにもう一度」は力強いロック・サウンドが聴けます。ヴォーカルはキュートですけどね。ストレートなどちらかというとアメリカらしいロックンロールになっています。歌詞はフラれてしまった女の子の気持ちを歌っているようで、「ひょっとしたら月曜日に電話がくるかも」というのがタイトルになっているんですね。
B-4 「愛の傷跡」は「愛のヴォイセズ」と似たギターのフレーズで入りますが、こちらはマイナートーンです。これも破局がテーマになった歌詞ですね。あの頃のエイミー・マンに何が起こったのでしょうか!? 私生活ではマイケル・ハウスマンと別れたなんて噂もありましたが。
ラストに置かれた「スリープ」は後の Cranberries の曲みたいですね。やはり高音ヴォーカルが特徴です。この曲に関してはエイミー・マンの高い声が似合っている気がするな。だとしたら声色の使い分けというのも有効なんだ。「眠りなさい、瞳を閉じて、おやすみなさいを言いなさい」という歌詞はアルバムの最後にふさわしいですが、実はこれ、かなり悲しい歌なんじゃないかと思います。
プロデューサーのマイク・ソーンが手がけたアーティストの中には Bronski Beat なんかもいるんですって。道理でイギリスっぽいサウンドが聞かれたわけだ。
4コメント
2019.12.11 14:59
2019.12.11 14:36
2019.12.09 23:46