ソロ転向後の華麗なる一刺し。
“刺す” という意味のステージネームを持つスティングは、本名 Gordon Matthew Thomas Sumner。バスガイドや工事現場、学校の教師などを経験してから、ロンドンで The Police を結成します。
ポリスの最終アルバム『Synchronicity』から2年後の1985年、スティングが自分のバンド・メンバーとともに制作したファースト・ソロアルバムが『ブルー・タートルの夢』でした。
バックバンドのメンバーの名前を見てビックリして、シャックリが止まり、心臓まで停まりかけて、ポックリ逝きそうになったのは私だけでしょうか(^^;^^;^^;)ドーモスミマセン
- Omar Hakim (ds)
- Darryl Jones (b)
- Kenny Kirkland (key)
- Branford Marsalis (sax)
ジャズじゃん!?
この人たちがどれだけスゴイ顔ぶれなのかご紹介すると、オマー・ハキムは Weather Report に、ケニー・カークランドとブランフォード・マルサリスは Wynton Marsalis のバンドに、ダリル・ジョーンズは Miles Davis のバンドにいたんです。
スティングはポリスを離れて自分のソロアルバムを作るにあたって、当初からジャズ畑のミュージシャンを起用しようと考えていたようで、大がかりなメンバー募集をした結果これらのスゴ腕たちが集まったとのこと。
明らかにポリスの時代とは違ったクォリティを目指していたんですね。
Side-A
1 If You Love Somebody Set Them Free/セット・ゼム・フリー (1985 - 全米3位、全英26位)
2 Love Is The Seventh Wave (1985 - 17位)
3 Russians (1986 - 全米16位、全英12位)
4 Children's Crusade5 Shadows In The Rain
Side-B
1 We Work The Black Seam/黒い傷あと
2 Consider Me Gone
3 The Dream Of The Blue Turtles/ブルー・タートルの夢
4 Moon Over Bourbon Street/バーボン・ストリートの月
5 Fortress Around Your Heart/アラウンド・ユア・ハート (1985 - 全米8位、全英49位)
アルバムのトップを切るのは大ヒット曲「セット・ゼム・フリー」。ロックビートの裏でタンバリンがオフビートを叩いているし、ベースのリフはR&Bみたいだし、ヴォーカルと肩を並べるサックスはジャズ的。それでいて親しみやすいメロディを持っていてビルボード・ホット100では最高第3位を記録する大ヒットにもなっている。
考えれば考えるほどスゴイ曲ですよね~。終始緊張感が高い中、セカンドコーラス後のブリッジで一気に伝わってくるエネルギーの解放感が好きです。
A-2 「ラヴ・イズ・ザ・セヴンス・ウェイヴ」は明るいカリプソの雰囲気が漂う曲。「愛は一番強い7番目の波。全てを洗い流してくれるさ」というメッセージは聴いていてホッとしますね。サウンドの方向性はレコーディングが行われたのがカリブ海に浮かぶ島だったことも影響しているんでしょう。
全米では第3弾シングルになったこの曲は85年~86年にまたがってヒットし、ビルボード・ホット100で最高17位を記録しました。最後のフェイドアウト直前で「Every Breath You Take/見つめていたい」 の一節が入っているのはスティングの洒落なんでしょうね(^^)
A-3 「ラシアンズ」は強い政治的メッセージが込められたバラード曲。イントロの時計の秒針がコチコチいっている部分でかなり切迫した状況が表現されている気がするのですが、当時の米ソの冷戦による核増強競争を憂いて、両国の国家元首に訴えかけている内容です。
この曲は、間奏部でロシアの作曲家プロコフィエフの作品からテーマを借用しています。スティングにとっては東西をつなぐパイプのようなものかもしれませんね。
重いテーマの曲であるにもかかわらず、この曲は第4弾シングルとなって、ビルボード・ホット100で第16位、UKチャートでは最高12位を記録するヒットとなりました。
「ロシアの人々もまた子どもたちを愛していますように」というメッセージが届きますように。
A-4 「チルドレンズ・クルセイド」もメッセージ性の強いバラード。第1次大戦で戦わされた若い世代を、80年代半ばのロンドンで麻薬中毒になっている若者の惨状になぞらえた歌です。サビで次々に重なってくるコーラスが幻想的な効果を生んでいると思います。私には、ブランフォード・マルサリスのサックスが悲鳴を上げているように聞こえます。
A-5 「シャドウズ・イン・ザ・レイン」はポリス時代のナンバーの焼き直し。ジャス・フレイヴァーが色濃く出たアレンジになっています。速いビートとベースラインが決まった上で、各楽器が真剣勝負を繰り広げているようなジャム感覚がたまらなくスリリングですね。かなり好き🎵
B面トップの「黒い傷あと」は炭鉱労働者について歌った曲。マリンバのサンプリングのようなリフはシンクラヴィアで出しているんでしょうか。タイトル中の「The Black Seam」とは炭鉱内の石炭の層のことを指しています。私もそうでしたが、末端の労働者というものはいつだって市場経済の原理によって虐げられる存在なのかもしれません。「俺たちとカネ、どちらが大事なんだ?」
B-2 「コンシダー・ミー・ゴーン」は4ビートのジャジーな曲。ゆっくりとしたテンポに影が差したようなダークなイメージで進んでいきます。控え目ながらもコンガを叩いているのは Eddy Grant で、彼はこのアルバムのレコーディング・スタジオの主でもあります。
B-3 「ブルー・タートルの夢」はアルバム・タイトルになったインストナンバー。1分16秒と短いながらもしっかりと4ビート・ジャズしています。ポリスとは違う新しいスティング宣言となる曲でしょう。
B-4はウッドベースを弾きながら歌う「バーボン・ストリートの月」。これまたジャジーなビートのナンバーですが、全体的な雰囲気は古~いミュージカルの中の1曲みたいです。アン・ライスの小説『インタビュー・ウィズ・ア・ヴァンパイア』に触発されて作ったというこの曲、日中は外に出ない生活をしている男を吸血鬼になぞらえて歌っています。
ラストを飾るのは「アラウンド・ユア・ハート」です。ここでスティングが歌っているのは彼の最初の結婚生活の失敗についてです。相手を大事にしよう、守ってあげようとしてまわりに地雷を撒く。 ふと気がつくと、地雷を撒いた自分も相手の所へ行けなくなっているといった状況を味わったのだと思います。
「この手で敷いた地雷を踏むのが怖くて、僕は足を止めなければならなかった」といった自業自得な場面は、私も日常生活で身に覚えがあったりします。
「もし僕が君の心の周りにこの要塞を築き、君を塹壕と鉄条網の中に閉じこめてしまったなら」という部分も、人に対して案外やってしまっているのかなと反省したり。
この曲はスウィングや4ビートとは違うんですが、至る所でジャズの要素を感じさせています。プレイヤーがジャズ畑の人たちなので自然にジャズの香りが漂ってしまうこともあるでしょう。Aメロ~Bメロにかけては、後打ちのビートに気を持たせるようなある種不安な浮揚感のあるメロディの運び。サビメロでビートがロック調に変わり、私の大好きな哀愁を感じるフックの強いフレーズが出てきます。
曲全体の強烈なアクセントになっているのはブランフォード・マルサリスのサックスだと思います。序盤・中盤・終盤、それぞれに出しゃばり過ぎない味のある演奏を聞かせてくれます。
「アラウンド・ユア・ハート」が日本で不人気だとは思えないのですが、日本盤のベスト盤からはどういうわけか外されてしまっていました。日本の担当者は一体何を考えていたんでしょうね?
2コメント
2020.01.20 07:26
2020.01.20 02:38