#0031『The Doors/ハートに火をつけて』 The Doors


 ロックに文学はみじんもないという定説を覆したバンドのデビュー・アルバム。

 1950年代にロックンロールが生まれ「楽しくロックンロールしようぜソング」が大ヒットするようになったものの、「ロックなんぞに文学はない」と足蹴にする向きも多かった60年代。

 フォーク界からそんな定説に立ち向かったのが Bob Dylan で、ロック・バンドとして文学性を織り込み、メッセージとして大きな社会的影響を見せたのがドアーズでした。

 詩人でヴォーカリストで間違いなくバンドの中心人物である Jim Morrison が64年に入学したUCLAの演劇学科で知り合ったオルガニスト/キーボーディスト Ray Manzarek と、瞑想道場で知り合ったドラマーの John Densmore と組み、最後にギタリストの Robby Krieger が加わったところでドアーズのラインナップが確定しました。

 彼らは66年にエレクトラと契約しますが、ロック・バンドとしては2組目だったといいますから、実力と華、そして将来への期待を大いに見込まれていた証となりますね。アマチュア時代からジム・モリソンのステージでの振る舞いは異彩を放っていたようで、彼のカリズマ性に目を付けたエレクトラの先見の明は素晴らしかった。

 『ハートに火をつけて』は67年にリリースされた彼らのファースト・アルバムです。上記のラインナップからもお分かりのようにベーシストがいないロック・バンドという特異な個性を持つドアーズは、このデビュー・アルバムで一躍その存在を世界に知らしめることとなりました。


Side-A
  1 Break On Through (To The Other Side)/ブレイク・オン・スルー (1991 - 全英64位)

  2 Soul Kitchen
  3 The Crystal Ship/水晶の舟
  4 Twentieth Century Fox/20世紀の狐

  5 Alabama Song (Whisky Bar)/アラバマ・ソング

  6 Light My Fire/ハートに火をつけて (1967 - 全米1位 ★ミリオン・セラー、全英49位、1991 - 全英7位)


Side-B

  1 Back Door Man

  2 I Looked At You/君を見つめて

  3 End Of The Night

  4 Take It As It Comes/チャンスはつかめ

  5 The End


 オープニングはデビュー・シングルになった「ブレイク・オン・スルー」から。シングルとしてはヒットせず失敗に終わった「ブレイク・オン・スルー」ですが、ロックがベースのポップ・ソングに身の毛がよだつほどおどろおどろしく難解な歌詞を乗せるという試みは見事に成功しています。

 ジム・モリソンのシャウトとレイ・マンザレクのオルガンがバトンを渡し合いながら疾走するサウンドは、ドアーズの典型的なスタイルとなりました。

 A-2 「ソウル・キッチン」はジム・モリソンの単独作で、彼のお気に入りだったLAのビーチにあったレストランに捧げた曲。どれくらいお気に入りだったかというと、長居し過ぎて営業時間が過ぎてしまい、追い出されるほどだったとか(^^)

 印象的なオルガンのリフに引っ張られてポップな展開を見せる「ソウル・キッチン」は、後進ミュージシャンにリスペクトされ、Patti SmithDavid Lee Roth がカヴァーしています。

 A-3 「水晶の舟」は物静かで思慮深さを感じさせるナンバー。短いながらもとにかくメロディが心に残る曲で、ゆっくりとした展開にこれまた難解な歌詞が乗ります。レイ・マンザレクはここで生ピアノを弾いて、ソロも披露しています。こうしたメロディアスな曲もまたドアーズが持つ重要な一面なのでしょう。

 A-4 「20世紀の狐」はポップな小品ながらこれまた心に残るナンバー。歌詞のレヴェルが高すぎてよく分からないのが玉に瑕(^^;) ギターとオルガンのユニークなリフが耳について離れなくなりますよ。ベースの音が入っていますが、この演奏はセッション・ミュージシャンの Larry Knechtel だそうです。彼は以下数曲でベースを弾いていますが、どういうわけかクレジットされていないんですよね。

 A-5 「アラバマ・ソング」Bertolt Brecht & Kurt Weill 作の小品。作者の名前からも分かるように、ミュージカル/オペラ用に書かれた曲をカヴァーしたものです。ジム・モリソンとしてはウィスキーという言葉を脳内変換して、ドラック讃歌としてレコーディングしたようですね。こうしたやり方も実に文学的な手法だと思います。

 A面のラストが第一のハイライトとなる「ハートに火をつけて」。日本ではアルバムの邦題にもなったこの曲は、セカンド・シングルとして大ヒットしたドアーズのシグニチャー・ソングです。メインで曲を作ったのはギターのロビー・クルーガーで、結果的に7分を超える長尺の仕上がりになったため、シングル化に際しては2分52秒というショート・ヴァージョンが用意されました。記録上はチャート・デビューとなった「ハートに火をつけて」はビルボード・ホット100で3週連続NO.1を走りました。早くもドアーズがロック界のレジェンドになった瞬間でした。

 「ブレイク・オン・スルー」と並び典型的なドアーズ・サウンドを持つ「ハートに火をつけて」の聴きどころは、やはりジム・モリソンのシャウトとレイ・マンザレクのオルガンとなりますが、ロビー・クリーガーのギターソロやオルガンとギターの掛け合いも見逃せないところです。

 一旦ピークに達した興奮を鎮めつつレコードをひっくり返すと、Howlin' Wolf をカヴァーした「バック・ドア・マン」が始まります(作者は Willie Dixon)。アマチュア時代はよくブルーズのカヴァーをしていたということなので驚くことではないのですが、アルバムの中でキラリと光っているように思えます。

 B-2 「君を見つめて」は最もハードなロックンロール・ナンバー。出だしのハイハットから緊迫感が漂い、馴染みやすいメロディと曲全体の疾走感に包まれて、あっという間に聴き終えてしまいます。サビメロの ♪Too Late, Too Late~ のところが頭に染みつきますね(^^)

 B-3 「エンド・オブ・ザ・ナイト」はメロウなスロー・バラード。「水晶の舟」と同系統ですが、サイケデリックな度合いという点では「エンド・オブ・ザ・ナイト」の方がはるかに強いですね。古いフランスの小説から取ったとされるタイトルにあらためて知性を感じます。

 B-4 「チャンスはつかめ」は軽快なポップ・ロック。マイナーなメロディが混じった湿り気のあるサウンドはウェスト・コースト・サウンドっぽい。やはり彼らはLA出身なのだと再確認してしまいます。ここでもオルガンが疾走してますが、ソロなんかとても湿っぽいんだよな~(^^) この曲に関してはそこがイイんだけれども。

 ラストを締める「ジ・エンド」がアルバム全体の大ハイライトとなります。11分半を超える長尺曲で、延々と続くギターのリフは良くも悪くも印象に残りますね。はっきり言えば不気味でおどろおどろしい雰囲気がここまで極まったか、という感じ。

 この曲もまた歌詞が難解でよく分かりません。英語力不足のためでしょうが、さらに当時のサイケデリックな風潮がつかみきれないということも大きいですね。恋人との別れがきっかけで書かれた歌詞とのことですが、「性と死」「狂気」などテーマが深いし、「親父、お前を殺してやりたい。お袋、あんたを・・・・」と言いつつ混乱の極致へと迷い込んでいくところなどもただならぬコンプレックスを表現しているようだし。

 「ジ・エンド」は後に Francis Ford Coppola 監督の映画『地獄の黙示録』で使われたことでも知られています。ジム・モリソンとフランシス・コッポラはUCLA時代の学友で、芸術家肌のカリズマという強い共通点がありますね。






 以上、全11曲でアルバムはお終いです。1ヶ月ほどのスタジオ・セッションで完成されたアルバムですが、既にドアーズのキャッチーな魅力が満載されています。ロック・ファンは絶対に聴かなければならない1枚でしょう!

4コメント

  • 1000 / 1000

  • gutch15

    2019.10.31 13:27

    @anasatoロック・アルバム100選などには必ず入って来る作品ですよね。ジム・モリソンの詩人性、カリズマ性にレイ・マンザレク先生の爆発的なオルガンが相まって、ものすごく個性的なサウンドが出来上がりました。マーク・ボランとの関連性は考えたことがなかったですね~(^^)
  • anasato

    2019.10.30 15:13

    これは名盤ですね。ドアーズって聴く前は、イメージ的に暗くて重いのかなって思ってましたが、いざ聴いてみると、意外に聴きやすい印象でした。名盤と呼ばれるものって、そういう面があると思います。もしや、マーク・ボランは「Twentieth Century Fox」にインスパイアされたとか無いですかねえ!?
  • gutch15

    2019.10.30 12:49

    @気ままにそうそう、歴史的名盤という称号が相応しいですよね! ロックと文学、そしてドラッグと瞑想を結び付けたある意味罪深き1枚でもあります。

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