#0029『Dire Straits/悲しきサルタン』 Dire Straits


 デビュー盤にして既に完成された個性的なパブ・ロック。

 ダイア・ストレイツが結成されたのは1977年のことでした。中心となっていたのは Mark KnopflerDavid Knopfler のギタリスト兄弟で、そこに友人の John Illsley (b)、Pick Withers (ds, perc) が加わりました。

 当初はパンク全盛の時流に乗って激しいロックンロールを演じたり、ジャジーな曲、ブルージーな曲など様々なタイプのサウンドにチャレンジしていたダイア・ストレイツでしたが、メジャー・デビューに向けて個性を確立していく上で固まってきたスタイルはルーツ回帰のパブ・ロックでした。

 78年の秋にリリースされたこのデビュー・アルバムを通して聴くと分かると思いますが、とにかく渋い! マーク・ノップラーのストイックなギター・プレイ、ハスキーなヴォーカルは、「渋い」という言葉がよく似合います。彼はすべての曲のソングライターでもありますから、アルバムを渋~い色で塗り尽くしているのであります!


Side-A
  1 Down To The Waterline/水辺へ
  2 Water Of Love
  3 Setting Me Up
  4 Six Blade Knife
  5 Southbound Again


Side-B
  1 Sultans Of Swing/悲しきサルタン (1979 - 全米4位、全英8位)

  2 In The Gallery

  3 Wild West End

  4 Lions/ライオン


 船の汽笛の音を模したようなSEから入る「水辺へ」からスタートです。リズム・ギターの醸し出す雰囲気が独特ですよね。このジャカジャカ感は他のバンドには出せない個性だと思います。マーク・ノップラーのヴォーカルはとても特徴があって、声の震わせ方などはなかなか真似できない味わいを持っていますね。男女の逢い引きをテーマにしたラヴ・ソングのようですが、なかなか尖ったサウンドとマッチしています。

 A-2 「ウォーター・オブ・ラヴ」はシングル・カットされたナンバーで、ちょっとトロピカルなサウンドは1曲目の緊張を解いてくれますが、何せヴォーカルがヴォーカルなのでどうしても多少の緊張感は残ってしまいます(^^) 男女の関係がうまくいかないことを描いた歌詞は、マーク・ノップラーの結婚生活の破綻について書いたのではないかと言われているそうですが、実際はどうなのでしょうね。

 A-3 「セッティング・ミー・アップ」はカントリー風味のイントロが印象的で、こんなところにも彼らのルーツが垣間見えますね。ユーモラスな歌詞はこのサウンドによく似合っていて、マーク・ノップラーの歌いっぷりもちょっと違っているように思えます。間奏部のギター・ソロもカントリーっぽく聞こえてきますよね。絶対に意識しているに違いない。

 A-4 「シックス・ブレイド・ナイフ」で再び緊張感が高まります。淡々としたベースラインが張りつめた空気を運んでくる感じで、ヴォーカルのラインは歌っているというよりもつぶやいていると言った方が良いかもしれません。エンディングのフェイドアウトがたっぷり取ってあるのも私は好きです。

 A面のラストはギターのリフがユーモラスな「サウスバウンド・アゲイン」。パーカッシヴなリズム帯にチープな響きのギターが乗って、なんだか楽しげですね。この曲は77年までにデモ・テープが完成していたそうで、彼らのメジャー・デビューへの重要な足がかりとなったものです。

 レコードをひっくり返すと世界的な大ヒットとなったシングル曲「悲しきサルタン」が始まります。どちらかというと派手で衝撃的なサウンドが跋扈していたご時世、そろそろ時代が落ち着いたサウンドを求め始めていた頃合いとも相まって、「悲しきサルタン」は世界的な大ヒットとなりました。このアルバムが売れに売れたのもこのシングル・ヒットのおかげですよね。全米ではビルボード・ホット100で最高第4位、全英でも8位まで上昇。その他にもアイルランド、オーストラリア、オランダ、カナダなどでトップ10入りを果たしています。

 B-2 「イン・ザ・ギャラリー」はベースのシンコペーションのリフが引っ張るナンバー。レゲエの影響も感じられるリズムには惹かれるものがあります。3分過ぎからギター・ソロが始まりますが、マイナー・トーンで進んでいたものが30秒後あたりからメジャー・トーンに変わるところが、雲間から差す陽光のようで素晴らしい。

 B-3 「ワイルド・ウェスト・エンド」はアコースティック・ギターがマンドリンのように聞こえるカントリー色が強い曲。実際にマンドリンなのか? キーボードも入っているようですが、これは誰の演奏? なかなか謎の多い曲であります。

 私はこの曲のメロディラインやコーラスワークが大好きで、多分一番ハマってるな~。敢えて「一押し宣言」はしませんが、それはなぜかというと「するめソング」だからです(^^;)

 ラストを飾るのはこれまた大好きな「ライオン」。イマジネーション豊かでストーリー性のある歌詞が良くて、ゆとりのあるリズムに乗るギターワークもすごく良い! 時々登場するグロッケンの澄んだ音色も魅力的ですよ。あとから追加でかぶせたんでしょうけどね~。






 全9曲とも統一感のある渋さは、デビュー・アルバムにして早くもバンドとして完成された姿であることを示しているように思います。ということは一方では、すべての曲が単一的だという見方もできるわけです。

 ダイア・ストレイツは「出来過ぎたデビュー・アルバム」の呪縛から逃れなければならなくなりました。次のアルバムではこの壁を乗り越えることを余儀なくされたのでした。

8コメント

  • 1000 / 1000

  • gutch15

    2019.10.28 12:53

    @Mermanシングルになっただけあって、けっこうキャッチーですよね。次はタイトル曲がお耳に留まればいいのですが(^^)
  • Merman

    2019.10.28 11:53

    3曲目まで聞きました。water of love のゆったり感が気に入りました。
  • gutch15

    2019.10.27 11:03

    @あこーみくヴァン・ヘイレンとダイア・ストレイツではだいぶ路線が違いますね~。後からとは言え、ダイア・ストレイツの良さが分かっていただけて幸いです(^^) タイトルはジャズのバンドの名前から付けたみたいですね。物憂げなトルコの領主が出てこなくて残念でした。。。

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