表情豊かなファースト・アルバム。
カリフォルニア出身の美人姉妹 Ann Wilson と Nancy Wilson は1972年にカナダで音楽活動を始めました。本国アメリカでデビューを果たしたのは76年のことで、そのファースト・アルバムが『ドリームボート・アニー』でした。
カナダのヴァンクーヴァーでレコーディングされたこの作品は、ハードなロック・サウンドとアコースティックなサウンドが共存した表情豊かなアルバムです。全10曲中ほとんどがウィルソン姉妹作で、早くも才能が開花している感じですね。
ジャケットの “Heart” のロゴも可愛らしく、アップで写っている姉妹2人も見目麗しいのですが、これが音楽になると一転、特にライヴでは激しいパフォーマンスを見せてくれたから驚きでした。
そんなギャップも良い方向に作用したのか、『ドリームボート・アニー』からはシングル・ヒットもある程度出て、アルバム自体もビルボードのアルバム・チャートに100週間チャートインするロング・セラーとなりました。当時の新人バンドがいきなりミリオン・セラーを記録したのもすごいことですね。
ここでファースト・アルバムのメンバーの確認をしておきましょう。
- Ann Wilson (vo, g)
- Nancy Wilson (g, vo)
- Mike Derosier (ds)
- Roger Fisher (g)
- Steve Fossen (b)
- Howard Leese (g, synth)
その他に曲ごとにゲスト・ミュージシャンとして、Ray Ayotte (perc)、Rob Deans (p, synth)、Mike Flicker (perc)、Geoff Foubert (banjo)、Kat Hendrikse (ds)、Duris Maxwell (ds)、Brian Newcombe (ds)、Dave Wilson (ds) らが参加しています。
Side-A
1 Magic Man (1976 - 全米9位)
2 Dreamboat Annie (Fantasy Child)/夢見るアニー(ファンタジー・チャイルド)
3 Crazy On You (1976 - 全米35位、1978 - 全米62位)
4 Soul Of The Sea
5 Dreamboat Annie/夢見るアニー (1977 - 全米42位)Side-B
1 White Lightning & Wine
2 (Love Me Like Music) I'll Be Your Song/ラヴ・ミー・ライク・ミュージック
3 Sing Child
4 How Deep It Goes
5 Dreamboat Annie (Reprise)/夢見るアニー(リプライズ)
A面トップを飾る「マジック・マン」は彼女たちの初の全米トップ10ヒットとなったセカンド・シングルで、エレクトリック・ギターの3連打のリフが特徴のAメロから、ハードに展開するサビメロまでアン・ウィルソンの力強いヴォーカルが乗りまくります。
「魔法の男」とは若い女の子を誘惑する年上の男のことで、この曲は女性の気持ちを歌ったラヴ・ソングなんですね。
A-2 「夢見るアニー(ファンタジー・チャイルド)」は3度登場する「夢見るアニー」の序曲的存在。ナンシー・ウィルソンのアコースティック・ギターに乗せてアン・ウィルソンがまさにファンタジックに歌っています。
A-3 「クレイジー・オン・ユー」はアコースティック・ギターのソロによるイントロからハード・ロックへと展開するハートらしいナンバー。Aメロが終わった後のブレイクが素晴らしく、その後のサビをよりいっそう盛り上げる効果を上げています。私はなぜか Paul McCartney & Wings の「Band On The Run」や The Moody Blues の「Question」を思い出したりします。
この曲は記念すべきアメリカでのデビュー・シングルで、ビルボード・ホット100で最高35位と早速トップ40入りを果たしました。また2年後にリヴァイヴァル・ヒットして再チャート・インし、その時には最高62位を記録しています。
A-4 「ソウル・オブ・ザ・シー」は美しいバラード・パートから始まる曲。ギター・アンサンブルやストリングス・セクションの導入によって角が取れた丸みのあるサウンドが生まれています。途中にテンポアップするパートが挟まって、海のSEから元のバラードに戻る所などはかなりドラマティックな構成です。最終的には6分を超えるアルバム中一番長い曲となっています。
A面ラストはタイトル・トラックの「夢見るアニー」。3回登場するうちで、これがメイン・パートになります。アコースティック・ギターとフォーク&カントリーの香りも感じるバンジョーに合わせて、アン・ウィルソンが優しく歌い、多彩なコーラスがバックを飾ります。
この曲は最初に「クレイジー・オン・ユー」のシングルB面としてリリースされましたが、のちに第3弾シングルのA面としてヒットしました。全米で最高42位を記録しています。
B面のトップはブルージーなロック曲「ホワイト・ライトニング・アンド・ワイン」。荒削りなロックだけに、魂が剥き出しになっているような感じを受けますね。ときどき入ってくるナンシー・ウィルソンのバック・ヴォーカルもイカしてますね。
B-2 「ラヴ・ミー・ライク・ミュージック」は実に美しいバラード・ナンバーで、ロジャー・フィッシャーのラップ・スティールがちょいとした田舎臭さを演出しつつ、ストリングス・セクションがそれを打ち消すという効果的なアレンジになっています。アン&ナンシー姉妹のデュエット、ユニゾンになる部分が素晴らしく美しい。
B-3 「シング・チャイルド」はかなりヘヴィなロック・ナンバー。ウィルソン姉妹に加えスティーヴ・フォッセンとロジャー・フィッシャーが作者としてクレジットされています。イントロのエレクトリック・ギターはかなりブルージー。Fleetwood Mac の「オー・ウェル」あたりのギター・フレーズを彷彿とさせます。そう言えば彼女たちは Led Zeppelin をリスペクトし、コピーしていたのでしたっけ。こういうヘヴィな曲が入っているのも納得です。
B-4 「ハウ・ディープ・イット・ゴーズ」は、アン・ウィルソンの単独作。しっとりとしたバラードで、ギターの音の間からはっきりと顔を出すピアノの音がすごく印象的です。このアルバムで、シンセサイザーではなく生ピアノが使われているのはこの曲と次の曲だけなんですね。
B-5 「夢見るアニー(リプライズ)」は、シリーズ第3弾にしてラストを飾る曲。A-5が本編だとするとこれはコーダに当たりますが、実は本編よりも長いのです。もうお馴染みになったメロディをテンポを落としてゆったりと演奏しています。アン・ウィルソンのフルートもしっかりとフィーチュアし、ストリングス・セクションとティンパニも配して流麗に仕上げています。
2コメント
2019.10.14 00:15
2019.10.13 22:55