瑞々しくセンティメンタルな若者の感情が吐露されている。
「ビリー・ジョエルのデビュー・アルバムは?」
「1974年に全米27位になった『ジョエルの物語(ピアノ・マン)』でしょ?」
「そう思うよね。でもそれはコロンビア・レーベルからのデビューで、その前に1枚アルバムを出しているんだよね!」
ということで、今夜は彼が1971年に Family Productions からリリースした初ソロ・アルバム、『コールド・スプリング・ハーバー ~ピアノの詩人~』をアップします。
と言っても、71年にリリースされたアルバムを私は持っておりません。『ビリー・ジョエル・ファースト』という邦題でちゃんと国内盤も出ていたようですが、わざわざ買う気も起きなくて・・・・(^^;)
どうやら71年盤はテープを若干速く再生した状態でマスタリングしてしまったというとてもお粗末な話が伝わっています。画像のLPレコードは、83年にコロンビアからリイシューされたUS盤で、内容的には、テープのスピードを正しく修正したリミックス・ヴァージョンということになります。
内容的には、まだ強いフックのある曲は少ないですが、魅力のあるメロディが随所で聞かれ、ソングライターとしての確かなポテンシャルが感じられます。レコーディング当時22歳だったビリー・ジョエルのヴォーカルはまだ線が細い感じがしてとても初々しいですよ(^^)
Side-A
1 She's Got A Way
2 You Can Make Me Free
3 Everybody Loves You Now
4 Why Judy Why5 Falling Of The Rain
Side-B
1 Turn Around
2 You Look So Good To Me
3 Tomorrow Is Today
4 Nocturne
5 Got To Begin Again
記念すべきデビュー・アルバムの1曲目に配置されたのは、ピアノの弾き語りによる「シーズ・ガット・ア・ウェイ」。後半でハイハットとストリングスが加わっているのはリミックス時のプロダクションなのでしょうか。
この曲はシングル・カットされ、北米だけでなくイギリスやヨーロッパでもリリースされましたが、当時はまったく売れませんでした。10年の時を経た81年、この曲のライヴ・ヴァージョンがシングル・リリースされ、翌82年にビルボード・ホット100で最高23位を記録しています。アーティスト・パワーが付いていたから売れたのだと思いますが、それだけではなく、曲自体も素敵だと思います。
A-2 「ユー・キャン・メイク・ミー・フリー」は新鮮な感性を感じるアップ・ナンバー。メロディは Paul McCartney の影響を感じさせるし、中盤からのバンド・サウンドで登場するエレクトリック・ギターのフレーズは George Harrison みたいで、The Beatles の要素がビリー・ジョエルの中に蓄積されているんだなと思います。ヴォーカルは後の Freddie Mercury を彷彿とさせます。
A-3 「エヴリバディ・ラヴズ・ユー・ナウ」はテンポの速いナンバーで、ビリー・ジョエルの曲芸のようなピアノ演奏を聞くことができます。コンサートでの定番曲の1つとなっていて、後にリリースされるライヴ・アルバム群に3回も収録されています。
A-4 「ホワイ・ジュディ・ホワイ」はリリカルな小品。ジュディというのは妹の Judith Joel のことでしょうか。何らかの苦しい状況に置かれた悲痛な思いを感じる歌となっています。アコースティック・ギターの伴奏のおかげで角が取れて、優しいサウンドに包まれていますね。
A-5 「フォーリング・オブ・ザ・レイン」はタイトル通りの雨音のようなピアノのフレーズが印象的なアップ・ナンバー。A-4と比べて鮮やかな雰囲気になっていますが、歌われている内容はチャンスを逃したことに対する悔悟の念のようです。この曲に限らず、若き日々を振り返って苦々しい思いを歌にすることが多いように思えます。
レコードをひっくり返すと、ミドル・テンポの「ターン・アラウンド」が流れ始めます。華やかなアレンジが施されていて、フェンダーローズやペダル・スティールなどがバックを固めていますね。オリジナル・ミックスでは Rhys Clark がドラムスを叩いていましたが、83年盤では Mike McGee に選手交代。そういう意味では、最も生まれ変わった曲だと言えるでしょう。
B-2 「ユー・ルック・ソー・グッド・トゥ・ミー」はユーモラスなオルガンのイントロで始まる曲。弾むようなリズムで展開していきます。他の曲がLA録音なのに対し、A-4とこの曲はビリー・ジョエルの地元ニューヨークでレコーディングされています。彼はとてもリラックスしたムードで、ハーモニカなんかも吹いちゃってますね。
B-3 「トゥモロウ・イズ・トゥデイ」はピアノ一本で弾き語っているナンバー。最も暗くて重苦しい曲かもしれないし、人生の希望に欠けるテーマもかなりメランコリックです。驚くのは2分25秒からの歌い方の変化です。ゴスペルっぽく気取って歌っていますが、真面目なのか皮肉っているのかは判断がつかないな。
B-4 「ノクターン」はピアノが主役のインスト・ナンバー。間違いなく、彼のクラシックの作曲家に対する憧れが現れているのでしょう。このアルバムに馴染んでいるかどうかはともかく、とても美しく光る曲です。オランダではシングル・カットされていました。
ラストを飾る「ガット・トゥ・ビギン・アゲイン」はとてもシンプルなバラード曲。この曲でピアノを弾いて歌うビリー・ジョエルが、その後の方向性を決めた瞬間がここにある、つまり、後のヒット・アルバムの中にこの曲が入っていても違和感がないくらいのクォリティだと思うわけです! A-1と迷うところですが、この曲を一押し!としておきます。
ビリー・ジョエル自身が、マスタリングに失敗した71年盤を認めていなかったのは、アーティストとして当然のことだと思います。さらに彼は83年のリミックス盤の方もあまり好いていなかったようで、本人談によると「リマスターしてもなお、ヘリウム・ガスを吸って歌ったみたいな声じゃないか」という趣旨のことを言っています(^^)
8コメント
2019.10.04 22:58
2019.10.04 15:22
2019.10.04 05:12