#0017『Greetings From Asbury Park N.J./アズベリー・パークからの挨拶状(アズベリー・パークからの挨拶)』 Bruce Springsteen


この頃は “第2の Bob Dylan” だった。

 ジャケ表のカラー部分を左にめくると・・・・、ポストカード風のアート。

 ジャケ裏にも切手のデザイン。

 ブルース・スプリングスティーンは本名 Bruce Frederick Joseph Springsteen、ニュージャージー州出身のロックンローラーです。今でこそ全世界のロック界中で最も偉大なミュージシャンの一人に数えられていますが、彼のキャリアは出だしから順調だったわけではありませんでした。

 彼は最初のうち、シンガー・ソングライターとしての実力は認められていたものの、商業的にはまったく芽が出ていませんでした。エネルギーに満ちた不発弾ですから、見方によっては危険極まる存在ですね(^^)

 この『アズベリー・パークからの挨拶状』は1973年にリリースされた彼のファースト・アルバムです。ところが日本では、セカンドの『The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle/青春の叫び』が先に出て、こちらが後追いでリリースされることとなりました。やはり知名度の関係でしょうね~。

 で、当初まったく売れなかったこのアルバムの全米チャートへのデビューはリリースから2年半後の75年7月26日。これは『Born To Run/明日なき暴走』の話題に乗っかる形で過去のアルバムが売れ始めたという意味だと思いますが、ビルボードのアルバム・チャートでの最高位も60位とたいへん地味な結果となりました。

 しか~し! ここに収録された全9曲は、どれもこれも生々しい情熱でいっぱい。歌詞に注目すると、ただただ熱いばかりというわけでもなく現実を冷ややかな目で見ているところも感じられて、さすがは「第2のボブ・ディラン」ということになるわけです。

 演奏の方も溌剌としていて爽快な聴き心地ですね。ブルース・スプリングスティーンがギター、ハーモニカ、キーボード、ベースとマルチに活躍しているのに加え、Clarence Clemmons (sax)、Richard Davis (b)、Vincent "Loper" Lopez (ds)、David Sancious (p,org)、Garry Tallent (b)、Harold Wheeler (p) らが参加しています。

(※ ちなみに上のパーソネルは手元のUS盤LPから写しているので、“クラレンス・クレモンズ” の綴りが間違っているのはご容赦願います。)

 また、下記の曲目では、初回発売の日本盤の邦題の後に、( )に入れて再発時につけ直されたものを併記してあります。


Side-A
  1 Blinded By The Light/光につつまれて (光で目もくらみ)
  2 Growin' Up/反抗期 (成長するってこと)
  3 Mary Queen Of Arkansas/アーカンソーの女王
  4 Does This Bus Stop At 82nd Street?/82番街の話 (82番通りにこのバスは停まるかい?)
  5 Lost In The Flood/血まみれになって (洪水に流されて)


Side-B
  1 The Angel/天使
  2 For You/お前のために (おまえのために)
  3 Spirit In The Night/夜の魂 (夜の精)

  4 It's Hard To Be A Saint In The City/町で聖者は楽じゃない (都会で聖者になるのはたいへんだ)


 A-1 「光につつまれて (光で目もくらみ)」は、シングルになった超有名曲。ですが彼自身のシングルはまったく売れませんでした。この曲を有名にしたのは Manfred Mann's Earth Band がカヴァーしたヴァージョンですね。そちらはまず本国イギリスで第6位を記録した後に、アメリカに飛び火してなんとビルボード・ホット100でNO.1になってしまいました!

 ブルース・スプリングスティーン版は生のロック・サウンドという感じで、マンフレッド・マン版とはだいぶ雰囲気が異なりますね。

 A-2 「反抗期 (成長するってこと)」は一転、音が薄くなります。ピアノのアルペジオから入るのですが、何というか弾き語りに近い雰囲気とでも言いましょうか。“Grow Up” をテーマにすること自体がまだまだ若い証拠ですね。瑞々しい感性がうらやましいです。

 A-3 「アーカンソーの女王」はギターとハーモニカのみをバックにしんみりと歌うナンバー。こういうスタイルは60年代のボブ・ディランからの影響を思わせるわけですが、正直言って良い影響なのか悪い影響なのか判断がつきません。

 A-4 「82番街の話 (82番通りにこのバスは停まるかい?)」は軽快なリズムが気持ち良い曲ですね。この曲は82番街を足早に歩いて行った時の光景を次々に描写しているような流れになっていて、運ちゃん、杖をついた男、足下から生える翼、ブロードウェイ・メアリ、ジョーン・フォンテーン、電車の広告主、恋をしているクリスマスの呼び込みの男などが登場します。

 ボスのアコースティック・ギターとデヴィッド・サンシャスのピアノによるイントロは軽やかな澄んだ空気を運んできます。すぐにベースとドラムスが入って、実に心地よいペースのリズムを刻み始めます。このあたりのリズム感は、なぜか Jeff Lynne と通じるものを感じます。

 エンディングはビートを落として余韻を残して終了。2分少々の短編ですが、健やかでスッキリとした後味を残してくれる作品です。若いよね~……。

 A面のラストは少し重々しいバラード「血まみれになって (洪水に流されて)」です。最初の邦題の方が内容に合っている気がしますが、表現としてはどぎついですね。ここでは彼のヴォーカル力が光っているような気がします。ギターが入っていないのに、まるで弾き語っているかのような説得力! バックがピアノからオルガンに変わるアレンジにも強く心を惹かれます。

 B面トップの「天使」は、これまた重々しいピアノ・バラード。珍しくウッドベースが使われている後半部分が特に素晴らしく、名曲だと言われる所以だと思います。未成年非行は実はアメリカの文化による犠牲者なのだと訴えかけるところにも、妙に冷静な説得力があります。

 B-2 「お前のために (おまえのために)」はアップテンポのロック・ナンバー。もどかしさがあふれるような若々しいヴォーカルがすごく好きです。この曲は Greg Kihn Band のカヴァーもあって、そちらも原曲の雰囲気をよく残している素晴らしいヴァージョンで、甲乙つけがたい出来だと思います。そのうち「聴き比べ記事」にて。

 B-3 「夜の魂 (夜の精)」はセカンド・シングルになった曲で、哀愁があってブルージーな中にも感情のほとばしりが感じられるんですね。これまた彼のシングルはまったくヒットせず、マンフレッド・マンズ・アース・バンドが全米40位までヒットさせる結果となりました。

 ラストの「町で聖者は楽じゃない(都会で聖者になるのはたいへんだ)」はアップテンポのロック曲。ちょいとうぬぼれた傲慢さが出ていますが、これは演出なのだと思います。「良い子でいて正しいことをしようと思っても、悪い連中に引きずり込まれてしまう」のは、昨今の日本でも変わらぬ悩みのように思えませんか?






 この段階ではまだまだ荒削りで、バンドとしての音作りの完成度も低いと思います。また全体に商業的なアピール力は低めであることも認めざるを得ません。

 しかしここには、あふれる情熱とほとばしるエキサイトメントがあります。また単にボブ・ディランが切り開いた道を辿って行くということではなく、「第1のスプリングスティーン」であろうとするもがきが感じられます。

 彼が大きく開花するのはこのデビューから2年後になりましたが、ここには既に大きくて頑丈なつぼみを見ることができるのです。

4コメント

  • 1000 / 1000

  • gutch15

    2019.10.01 14:43

    @anasato多くの人は再発盤の邦題で馴染んでいると思いますよ(^^) 他のアーティストに取り上げられる曲が多いのも納得のメロディの強さがありますね。ただ、カチッとしたバンド・サウンドはまだ完成していないですね。
  • anasato

    2019.10.01 14:40

    好きなアルバムです。ポップで聴きやすい曲も多いですよね。並びもいい。それにしても再発で随分と邦題が変わったんですね。私が親しんだのは全部再発版の方でした。AngelやFor Youは無理に邦題にしなくて良さそうなものを(笑)
  • gutch15

    2019.10.01 13:03

    @気ままに当初はバンドというよりも弾き語りのイメージがあったんですかね。マンフレッド・マンズ・アース・バンドなどが彼の曲を取り上げたおかげで陽の目を見たのが幸いでした!

自由人 Gutch15 の気まぐれライフ from 横浜

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