プロデュースは David Crosby。
ダブルジャケットの内側
ジョニ・ミッチェルこと Roberta Joan Anderson は、カナダ人シンガー・ソングライターです。彼女を一言で表すと「天才」です。その音楽はフォークからポップ、ジャズと広範囲にまたがり、しかもそれぞれのジャンルで高く評価されるクォリティを持っています。
また彼女は、写真家や画家としても活躍しています。マルチ・アーティストなんですね。レコードのジャケットなんかも自分で創作しているんです。
今日はジョニ・ミッチェルのデビュー・アルバム『モダン・フォークの新星』をアップします。全10曲とも彼女の自作ナンバーで、ギターの弾き語りという伝統的なフォークの形を継承しながらも、新しいコード進行、独特のメッセージ性と話題には事欠かなかったようです。
このアルバムの時点ではまだ声がとても若々しくて、同じ女性アーティストの Joan Baez と Judy Collins の中間に位置するような声質が素晴らしいと思います。ジュディ・コリンズと言えば、ジョニ・ミッチェル作の「Both Sides Now/青春の光と影」をヒットさせていましたが、作者の方はこのデビュー・アルバムにその有名な曲をあえて収録していないのが興味深いです。
当時、既に「モダン・フォーク」という言葉は認知されていたようですが、彼女の音楽にはその範疇をも超えてさらに新しく進化しようとするエネルギーが感じられます。実際、1970年代に入ってみれば、彼女の進化・発展・変貌によってこのエネルギーの正体が徐々に明らかになっていきました。
プロデュースはあのデヴィッド・クロスビー。ジョニ・ミッチェルの作曲、アレンジを無理なく昇華させて、瑞々しさを上手に表現することに成功しました。
アルバムは、A面が「I Came To The City/私は町にやってきた」、B面が「Out Of The City And Down To The Seaside/町を出て 海辺へ」という区分けがされています。このコンセプトは彼女の実体験によるものらしいですね。
Side-A
1 I Had A King/私の王様
2 Michael From Mountains/山から来たマイケル
3 Night In The City/巷の夜
4 Marcie
5 Nathan La Franeer
Side-B
1 Sisotowbell Lane
2 The Dawntreader
3 The Pirate Of Penance/パイレート・オブ・ペナンス
4 Song To A Seagull/かもめの唄5 Cactus Tree/さぼてんの木
A-1 「私の王様」は、かつての夫 Chuck Mitchell についての曲。どうも芸術家肌のムラっ気の強い人物だったようで、短い結婚に終わりましたが、ミュージシャン同士としてかなりの影響を受けたとか。デトロイトで暮らしていた頃の話だそうです。
A-2 「山から来たマイケル」も彼女の恋愛に題材を取った曲。“マイケル” は山に住む画家で、その実態をほとんど知らないのに恋をしてしまって良いのだろうか、という苦悩から作られました。マイケルに恋する乙女ジョニといったロマンティックな構図が見えます。
A-3 「巷の夜」は多重コーラスで夜の生活の楽しさを歌った曲。都会の夜に戸惑い驚きつつも、弾けようとしている姿が浮かびますね。ウキウキしたピアノが彼女の気持ちを代弁しているのでしょう。Simon & Garfunkel みたいなベースライン、ハープシコードのようなピアノ、対位旋律のハーモニーに彩られたこの曲は、ファースト・シングルとしてカットされましたが、残念ながらヒットはしませんでした。
A-4 「マーシー」で歌われている孤独な女性は、ジョニ・ミッチェルの友人のことだと思われます。一節によると、カナダからアメリカに出てきた時に一緒だった友だちだそうで、この歌の内容から察するに2人は離ればなれになってしまったのですね。
A-5 「ネイサン・ラ・フラニーア」は都会に住むタクシー運転手についての歌。ジョニ・ミッチェルがニューヨークという大都会から離れることになったときに、偶然乗り合わせたタクシーの運転手の姿に、都会の辛さ、醜さを見てしまったのでしょうね~。陰鬱で超真剣な曲調は、彼女の真面目な一面を表していると思います。
B-1 「シソタウベル・レイン」は、牧歌的な自然の歓びにあふれた曲。謎の言葉 “Sisotowbell” とは、“Somehow, In Spite Of Trouble, Ours Will Be Ever Lasting Love” のアクロニム。都会を離れて前向きになっているのが伝わってきますね。
B-2 「ザ・ドーントレッダー」は海に方向転換して幻想的なステージを求めた曲。主人公にとって海は唯一信頼でき、人生に真剣に向かわせてくれる存在なのだと思います。ちょっと複雑な曲は5分に及んでいて、アルバム中で最も長くなっています。
B-3 「パイレート・オブ・ペナンス」も海の歌ですね。荒くれ者の海賊に惚れ込んで落ちぶれて行く踊り子の恋模様を歌っています。比喩的な物語に形を変えていますが、これもジョニの私生活に題材を求めた曲でしょう。哀愁をはらみつつもフラメンコの香りを漂わせ、幻想的に浮遊感のある展開を見せるこの曲は、私のお気に入りです。
B-4 「かもめの歌」は実質的なタイトル・ナンバーと言えます。彼女がカナダから都会に出、そして都会を離れたのは何のためか。それは人に期待し、人に絶望したあげくに、社会という名の怪物から自由になるため。「愚かな鳥 かもめ」に話しかけるという形をとって、彼女は人から距離を取ることを表現しています。
ラストを締める「さぼてんの木」も自由を追求する歌です。どんなに男に慕われても、女はただ自由になろうとするだけ。たった一人の男に決めることなどできない。女は自由になろうとして忙しいのだ、といったメッセージは、完璧に正鵠を射ています。その中には、やはりジョニ・ミッチェル自身の姿がくっきりと見えます。
6コメント
2019.09.27 11:40
2019.09.27 10:39
2019.09.26 23:43