#0011「The Elf」と#0012『Bedsitter Images』 Al Stewart デビュー


 Al Stewart は本名 Alastair Ian Stewart、スコットランド生まれでイングランド育ちのシンガー・ソングライターです。私にとってはいつまでも「孤高の吟遊詩人」という印象が強い彼は、1965年、19歳のときに夢をいっぱい抱えてロンドンに出てきました。

 ロンドンでの彼の音楽キャリアは、どこか懐かしいフォーク・ロックからスタートしています。この時期に Paul Simon と同じアパートに住んでいたというのは有名な話で、かの名曲「Homeward Bound/早く家に帰りたい」はこの時期に書かれたものなんです。

 他にも Andy Summers からギターを買い取ったりと、後の大物ミュージシャンと親交があったようですが、彼自身も将来の大物になるべくデビューを飾ったのが1966年。まずはデビュー・シングルとなったこの曲からご紹介しましょう。

 「ジ・エルフ」は66年にデッカ・レコードからリリースされたシングルで、67年リリースのデビュー・アルバムには収録されなかったために、なかなか聴くことができなかった幻の曲でした。しかし最近は初期の曲を集めたコンピレーションに収録されるようになり、ようやく多くのリスナーの耳に届くようになりました。

 この曲はアル・スチュワートの自作ナンバーで、ダンサブルな弾むリズムがいかにも楽しげです。スコットランドでは踊れる民謡が多々生まれていますが、この曲もそんなイメージがあるんですよね~🎵

 さて、この曲でギターを弾いているのはなんと Jimmy Page なんです! そして彼が使っているギターは Jeff Beck の持ち物! 今では「ジミー・ペイジ先生」と呼びたくなる大御所にもそんな時代があったのだと思って聴くと、なおさらこの曲が楽しくなってきますよね。

 ここでシングルのB面曲にも触れておきましょう。当然こちらもデビュー・アルバムには未収録ですから、いよいよ「幻度が高い」曲ということになりますね。その曲とは「Turn Into Earth」で、作者は Paul Samwell-Smith & Rosemary SimonThe Yardbirds のアルバム『Roger The Engineer』収録のちょっとサイケな感じのナンバーです。

 「ターン・イントゥ・アース」を聴いているとソロのアーティストだとは思えないんですよね。典型的なロック・バンドのサウンドだと思います。デッカ・レコードから連想してしまうためか、The Moody Blues っぽさなんかも感じたりして。B面なのにとても存在感のある印象的なナンバーなのでした。




 さあ、それでは、若々しい息吹に思わず頬がゆるんでしまうデビュー・アルバムにまいりましょう。

 『ベッドシッター・イメージズ』はどちらかというと内向的で私小説的な内容の曲が多いんですよね。アル・スチュワートというと1970年代にアダルト・コンテンポラリー路線で大ヒットを出して世界的な人気を得ましたが、デビューした60年代後半は、地味なフォーク・シンガーから必死に脱皮しようともがいていた時期のように思えます。

 後から見れば「フォーク → フォーク・ロック → ソフト・ロック → アダルト・コンテンポラリー」といった流れが分かってしまっていますが、当時は本人もリスナーも、その先どうなっていってしまうのかまったく分からなかったことと思います。

 『ベッドシッター・イメージズ』がレコーディングされた67年9月は彼にとって「歴史が動いている」時期でした。もう少し早かったら、そこには素朴なフォーク・ソングが収録されていたはずです。そしてもう少し遅かったら、そこには Fairport Convention が参加していたはずです。そんな変動期にリリースされたため、そのサウンドはアコースティック・ギターの弾き語りによるフォークではなく、Alexander Faris がアレンジしたオーケストラにバックアップされたポップ・ヴォーカルもののようになっています。

 アル・スチュワート自身がその仕上がりを100%気に入っていたかというと、少し疑問が残ります。自分の朴訥な歌声の味わいが消されてしまったのではないかと危惧していたふしがあります。ところが評論家筋からはかなり絶賛されて、彼はミュージック・シーンに存在感を示すことになったのでした。


Tr-01 Bedsitter Images
  02 Swiss Cottage Manoeuvres/スイスの別荘
  03 The Carmichaels/カーマイケル家
  04 Scandinavian Girl
  05 Pretty Golden Hair
  06 Denise At 16/16才のデニース
  07 Samuel, Oh How You've Changed!/サミュエル、変わっちゃったね!
  08 Cleave To Me
  09 A Long Way Down From Stephanie/ステファニーから遠く離れて
  10 Ivich
  11 Beleeka Doodle Day
  12 Lover Man/愛する人
  13 Clifton In The Rain/雨のクリフトン



  ※曲目、曲順は再発CDに拠ります


 オープニングはタイトル曲の「ベッドシッター・イメージズ」です。緊張感のあるマイナーなコードが魅力的で、オーケストラを配したプロデュースもなかなか良い印象です。このあたりがプロデュース過剰だとアル・スチュワート本人が感じていた可能性はありますが、客観的に見て仕上がりはクォリティが高いと思います。この曲自体はロンドンのアール・コート・アパートに住んでいた頃に既に書かれていたものだそうです。

 Tr-02 「スイスの別荘」はアルプスの山に響いているようなホーンから入るリリカルなナンバー。イントロの後はアコースティック・ギターがワルツのリズムを奏でます。私はこの曲を聴くと Cat Stevens の「Morning Has Broken/雨にぬれた朝」を思い出します。それにしてもオーケストラがゴージャスですね~。

 Tr-03 「カーマイケル家」は淡々としたリズムをバックにカーマイケル夫妻の生活を歌います。こういう曲は弾き語りでも良かったと思います。

 Tr-04 「スカンディナヴィアン・ガール」はストリングスのイントロから入るポップなナンバー。こういう軽いタッチの曲もアル・スチュワートにはよく似合いますね。間奏部のアコースティック・ギターのソロが、短いながらも良いアクセント。この曲の主役の「スカンジナヴィアの少女」は11曲目で再登場します。

 Tr-05 「プリティ・ゴールデン・ヘア」はミュージカルに出てくるような軽快な曲。オーケストレイション担当のアレクサンダー・ファリスは、オペラなども作曲している人なので、こういうアレンジはお手のものなんでしょう。

 Tr-06 「16才のデニース」は素朴な味わいのインスト曲。アコースティック・ギター1本で叙情的な旋律を演奏しています。

 Tr-07 「サミュエル、変わっちゃったね!」は軽快なリズムに親しみやすいメロディが乗るナンバー。子どもの視点から描かれた歌詞はけっこう奥深いと思います。曲の中に登場する Jenny とは Jenny Hancock なる女性のことだそうで、この人が Jenny Becket という名前で曲をリリースしたのですが、その Becket は劇作家 Samuel Becket の苗字を使ったものなのだとか。なんだか複雑な背景が感じられるナンバーです。

 Tr-08 「クリーヴ・トゥ・ミー」はアコースティック・ギターから入りオーケストラの演奏にバトン・タッチするイントロが1分半も続きます。タイトルは「ボクに忠実でいて、ボクに執着して」くらいの意味でしょうか。キミとボクのどちらが執着しているのか、分からなくなりますね(^^)

 Tr-09 「ステファニーから遠く離れて」はテンポをぐっと落としたフォーク・バラード。左チャンネルのハープシコードがバロックの雰囲気を出してますね~。特にエンディング間際のハープシコードが好きです!

 Tr-10 「アイヴィッヒ」はかなりダークなイメージのインスト曲。アル・スチュワートのギター1本で4分半近く弾ききってしまいます。同じインストでも「16才のデニース」のほのぼのした雰囲気とはまったく違う、シリアスな曲調です。

 Tr-11 「ビリーカ・ドゥードル・デイ」はアルバム中で最も長い7分近いナンバー。最初はギター1本の弾き語りで、1分20秒からオルガンが加わります。「スカンジナヴィアの少女」は「♪ I Had A Girl Once In Sweden」という形で登場。また曲中に出てくる「Mike and Robin」というのは昔一緒にバンドを組んでいた Mike HeronRobin Williamson のことです。ダークな雰囲気のまま後半に入りますが、感極まっているのか奇声を発するような妖しい盛り上がりさえ聞かれますね。

 Tr-12 「愛する人」はアルバム中唯一自作曲ではないナンバー。作者は「ビリーカ・ドゥードル・デイ」で登場したマイク・ヘロンなんです。面白いつながりですね。とても軽やかで心が弾んで来ます。途中で左右両チャンネルに分かれて「1人デュエット状態」になるところがユニークです。

 ラストを飾るのはフォーク・ソングの「雨のクリフトン」。おそらく初期のアル・スチュワートはこういうナンバーを中心にイメージして曲作りを進めていたのでしょう。素朴ながらもアル・スチュワートの歌心が一番良く伝わってくる曲だと思います。あえてこの曲を一押し!





 プロフェッショナルからの評価は高かったものの、このアルバムはまったくと言っていいほど売れませんでした。したがって後にヒットを出すようになってからのリイシュー(再発盤)が多く、曲目・曲順はかなりのヴァリエーションがあります。

 このアルバムと上記の「ジ・エルフ」を聴いておけば、ごく初期のアル・スチュワートは押さえられると思います🎵

4コメント

  • 1000 / 1000

  • gutch15

    2019.09.26 14:21

    @anasatoドノヴァンほどは癖がない素朴な感じですね。この段階ではまだ自分を強く出せなかったんだろうな、と思わせるところもあります(^^)
  • anasato

    2019.09.26 14:05

    「Year of the Cat」がデビュー曲かと思ったら全然もっと前からレコードを出していたんですね!ヤードバーズのサイケな曲を取り上げてるのをみると、デビュー時はドノヴァンとか近い感じだったんでしょうかね?
  • gutch15

    2019.09.25 00:43

    @sgtbeatlesロンドン時代はデビュー前やビッグになる前のミュージシャンたちと交流があったようですね。アラン・パーソンズといつ知り合ったのかが気になっています(^^)

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