19歳のシンガー・ソングライターの天賦の才が詰まっている。
私が最も好きな女性シンガー・ソングライターはローラ・ニーロです。この『ファースト・アルバム』は、1967年にリリースされた彼女のデビュー・アルバムですが、当時はその内容の充実度の割りにはまったく注目されずに終わりました。
しかし、音楽の神様は彼女の才能をただ眠らせてはおかなかったのです。
The Fifth Dimension や Blood, Sweat & Tears、Barbra Streisand らによって彼女の作品がカヴァーされ、大ヒットを記録したのです。一般の市中のリスナーが気付かなかった彼女の楽曲の魅力を、さすがに業界の玄人たちは見抜いたんですね~🎵
そんな中、日本盤が出たのがオリジナルから3年遅れの1970年。アメリカでも新規まき直しで、タイトルを変えて曲順を入れ替えた新ヴァージョンが1973年にリリースされました。
それがコチラ。
私が最初に買ったのは、この1973年版のUS盤LPレコードです。ジャケットが全然違うものに差し替えられているので一目で分かりますね。一番上の『ファースト・アルバム』は復刻された日本盤CDで、最近購入したものです。
プロデューサーは Milt Okun。自らは The Skifflers なるグループの一員として、そして裏方としては Peter, Paul & Mary や The Brothers Four、John Denver らを手掛けてきたフォーク畑のミュージシャンです。
レコーディング時に19歳だったローラ・ニーロの瑞々しい感性が十分に表現された『ファースト・ソングズ』は全12曲から成っています。中には他のミュージシャンによってかなり有名になった曲も入っているのが嬉しいところ(^^)
Side-A
1 Wedding Bell Blues
2 Billy's Blues3 California Shoeshine Boys
4 Blowing Away
5 Lazy Susan
6 Good By Joe
Side-B
1 Flim Flam Man (Hands Off The Man)
2 Stoney End
3 I Never Meant To Hurt You/涙は二人で
4 He's A Runner
5 Buy And Sell
6 And When I Die/そして私が死ぬ時
A面のトップはフィフス・ディメンションがカヴァーして1969年にビルボード・ホット100でNO.1ヒットになった「ウェディング・ベル・ブルーズ」から始まります。フィフス・ディメンションはイントロから忠実にカヴァーしていたんだなあ。ピアノのイントロから始まり、彼女の歌声がなぞるのは、ああ、なんて素敵なメロディ! ハートをわしづかみ、というのはこういうことを言うんですね。ハーモニカ (Buddy Lucas) やチェロ、フルートなどの各楽器が本当にうまく配置されています。
この曲1曲だけを考えても、このアルバムが音楽史の陰に埋もれてしまわなくて良かったと心から思います。
A-2 「ビリーズ・ブルース」はジャジーなバラード。アレンジャーの Herb Bernstein は Peggy Lee のような雰囲気を狙ったそうです。始まりはチューブラー・ベルの厳かな音が2つ。ドラムス、ベース、ピアノの基本編成に味わい深いブルージーなトランペット。ローラの感情をこめた歌い方が印象的です。
A-3 「カリフォルニア・シューシャイン・ボーイズ」は曲調一転、アップ・テンポのナンバーです。“靴磨きの男の子が、私の傷ついた心をピカピカにしてくれる” なんてちょっと切なくて素敵な発想だと思います。
A-4 「ブロウイング・アウェイ」は典型的なローラ・ニーロ作品だと思いますね。こういうシンコペーションのリズムを使うのがローラのお得意で、このあといくつもの曲でシンコペーションが使われます。「ブロウイング・アウェイ」はピアノではなくギターのリフが中心になっているんです。この曲もまたフィフス・ディメンションがカヴァーしてヒットさせました (1970 - 全米21位)。
A-5 「レイジー・スーザン」はブルージーなスロー・ナンバー。フリー・スタイルの前段を終えてインテンポになりますが、ビートは2つ。途中ヴォーカルが力強く盛り上がるところから4ビートに変わります。ふたたび2ビートになってから最後はフリーに戻っていきます。
A-6 「グッドバイ・ジョー」は「ブロウイング・アウェイ」タイプのリズムの曲。ホーンとサビのところでヴォーカルと呼応しているフルートの音色にヤラれますね。メロディの運びとコード進行がとてもナチュラルでありながら魅力的。この両立が成り立つのが彼女の天賦の才だと思います。
レコードをひっくり返してB面は Barbra Streisand がカヴァーした「フリム・フラム・マン」から。“Flim Flam” とはペテン師のことで、“ペテン師には関わらないこと!” と訴えているんですね。ミドル・テンポのリズムと明るいメロディに乗せて、これまた明るく歌うローラ・ニーロ。彼女の曲の中でも重要度の高い曲ですね。
この曲には私の「背筋ゾクゾク・ポイント」があって、サビの部分の
♪ Going Down The Stoney End
I Never Wanted To “Go” Down the Stoney End
Mama Let Me Start All Over
Cradle Me, Mama Cradle Me Again
が内容的にもメロディ的にもたまらなくグっと来るのですが、特にサード・コーラス目の “Go” の音程が、前半の2回と比べて “1度上がっている” ところにさしかかるともう耐えられません! 今でも聴くたびに “背筋ゾクゾク、鳥肌”。
B-3 「涙は二人で」はふたたびジャジーなメロウ・チューン。トランペットの音色がナイトクラブのような空気を演出しています。本当の自分が上手く出せずに、知らず知らず大切な人を傷つけてしまったことはありませんか? 私はあるんです。多分何回も・・・・。そんなときにこの曲を相手に聴いてもらって、ほんの少しでもいいから私のことを分かってもらいたいなと思います。
B-4 「ヒーズ・ア・ランナー」もジャジーでドラマティックなナンバー。スロー・パートから始まって、4ビートに展開するところではとても盛り上がります。ローラ・ニーロの感情の起伏と一致していると考えると、彼女が持っていたであろう激情も想像がつきますね。“ランナー” という、いつまでも一ヶ所にとどまってはいない、走り去って行ってしまう男性について歌った歌詞は現実に存在する誰かについて歌っていたのかもしれません。
B-5 「バイ・アンド・セル」もジャジーな雰囲気を出すことに成功しています。ミュートの効いたトランペットが一つの楽曲にここまで華を添えるとは! “buy and sell” は言い換えると “come and go” になりますか。あらゆる物は、そしてあらゆる者は、やって来ては去ってゆく。生と死、子どもと恋人、涙。
ラストを締めるのはブラッド、スウェット&ティアーズがカヴァーして大ヒットさせた「そして私が死ぬ時」。ローラ・ニーロのオリジナル・ヴァージョンもイントロからブラス・ロックの香りを漂わせています。曲中でもホーン・セクションが活躍しています。こうしたアレンジのおかげで、BS&Tの注意を引いたとすれば、なんて幸運な偶然だったのでしょうね!
“私が死ぬときには、一人の子どもが生まれ、そうして世界は続いていく” という歌なので、内容的には決して暗~い歌ではありません。1997年に49歳という若さで彼女が亡くなった時に世界のどこかで生まれた赤ちゃんが、ローラ・ニーロの生まれ変わりなんですね。今はどこで何をしているんだろうか!
8コメント
2019.09.18 11:19
2019.09.18 11:03
2019.09.17 13:43